過去問クエスト

63億円を支払っても買えなかった土地|「地面師」事件の登記記録は仮登記だらけだった

公開・掲載過去問 16問

Netflixの『地面師たち』が話題になったのは、令和6年の夏でした。
土地の持ち主になりすまして大企業から大金をだまし取る話で、決済の場面には司法書士も出てきます。
司法書士がドラマで描かれることはめったにないので、不動産業界、士業界隈ではずいぶん話題になりました。

あのドラマにはモデルになった実際の事件があります。
平成29年、東京の西五反田にあった古い旅館の敷地をめぐって、積水ハウスが63億円を支払い、結局その土地を1坪も手に入れられなかったという事件です。

その土地の登記記録を取得してみると、甲区に並んでいるのは仮登記ばかりでした。
2号仮登記がされ、その請求権がさらに別の会社に売られ、抹消され、今度は別の会社が始期付の仮登記をして、本登記になる。
テキストの仮登記の章に出てくる場面が、1筆の土地の上で順番に起きています。

仮登記の章は、読んでいて「いま何の話をしているんだっけ」となりやすいところです。
1号と2号、主登記と付記登記、仮登記なのか本登記なのか。
似た言葉が何重にも重なってくるうえに、実際にどんな場面で使うのかが見えないので、覚えたそばから混ざっていきます。

この記事では、事件が起きた順に甲区を読みながら、その混ざりやすいところを1つずつほどいていきます。
読み終えるころには、「2番付記1号」という登記を見て、誰がどんな権利を持っていて、抹消できるのは誰で、そのとき何を添付するのかまで、自分の言葉で言えるようになっているはずです。

司法書士試験のイメージづくりを目的とした教材です。事件の真相や関係者の責任を論じるものではありません。登記記録は令和7年8月に取得したもので、個人の氏名は記号に置き換え、住所は省略しています。事件の経過と金額は、積水ハウスが公表した調査報告書・適時開示と、それにもとづく報道によっています。登記記録から分からないことを推測で書くときは、推測だと断ります。

五反田駅から徒歩4分、600坪の古い旅館

舞台になったのは、JR五反田駅から歩いて4分ほどの場所にあった旅館です。
敷地は約600坪。
山手線の駅のすぐそばにこれだけまとまった土地が残っていることはまずないので、マンション用地として不動産業界では以前から知られた存在だったそうです。
旅館は平成27年ごろに営業をやめていて、所有者の女性(この記事ではAさんと呼びます)は、平成29年の2月ごろから入院していたと報じられています。

持ち主は高齢で入院中、建物は使われていない、場所は一等地。
狙われたのは、そういう土地でした。

この土地でその後に起きたことを、先に並べておきます。
かっこの中は、そのとき登記記録に記録された内容です。

  1. 平成29年4月24日 売買契約。積水ハウスの買値は70億円で、この日に手付金14億円を支払う(2番と付記1号、2つの仮登記)
  2. 5月 本物のAさんの側から、積水ハウスに内容証明郵便が届く
  3. 6月1日 残代金を決済。ここまでの支払いは合わせて約63億円(同日、本登記を申請)
  4. 6月9日 法務局が本登記の申請を却下
  5. 6月24日 Aさんが亡くなる(3番、相続による所有権移転)
  6. 7月25日 積水ハウスの仮登記が抹消される(4番)
  7. 11月7日 相続人と旭化成不動産レジデンスが売買契約を結ぶ
  8. 平成31年4月23日 中間会社の仮登記が抹消される(5番)
  9. 令和1年5月13日 旭化成不動産レジデンスの仮登記(6番)
  10. 令和2年1月15日 仮登記に基づく本登記(6番の余白)
  11. 令和6年2月 30階建てのタワーマンションが完成(8番、敷地権)

実際の登記記録がこちらです。

登記記録品川区西五反田二丁目の土地(旧旅館の敷地 → タワーマンションの敷地)
表題部(土地の表示)
①地番②地目③地積 ㎡原因及びその日付〔登記の日付〕
78番1宅地205:39(余白)
22番1宅地523:50昭和41年9月16日土地区画整理法の換地処分〔昭和41年10月4日〕
(余白)(余白)2077:33③22番2、22番3、22番5、22番6を合筆〔令和4年10月19日〕
(余白)(余白)2079:57③錯誤〔令和4年10月19日〕
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
1所有権移転平成2年4月19日第11812号原因昭和50年12月23日相続所有者 (住所省略)A順位2番の登記を移記昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項の規定により移記平成7年11月22日
2所有権移転請求権仮登記平成29年4月24日第12149号原因平成29年4月24日売買予約権利者東京都千代田区永田町二丁目9番6号十全ビル406IKUTAHOLDINGS株式会社
付記1号2番所有権移転請求権の移転請求権仮登記平成29年4月24日第12150号原因平成29年4月24日売買予約権利者大阪市北区大淀中一丁目1番88号積水ハウス株式会社
3所有権移転平成29年7月4日第19974号原因平成29年6月24日相続共有者(住所省略)持分2分の1B(住所省略)2分の1C
42番付記1号所有権移転請求権の移転請求権仮登記の抹消平成29年7月25日第21626号原因平成29年6月13日解除
52番仮登記抹消平成31年4月23日第13461号原因売買予約無効
6始期付共有者全員持分全部移転仮登記令和1年5月13日第15296号原因平成29年11月7日売買(始期令和2年1月15日)権利者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社
 共有者全員持分全部移転令和2年1月15日第550号原因令和2年1月15日売買所有者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社
7合併による所有権登記令和4年10月12日第25410号所有者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社
8所有権敷地権 建物の表示品川区西五反田二丁目22番地1一棟の建物の名称アトラスタワー五反田令和6年2月6日登記

*下線のあるものは抹消事項であることを示す。

個人の氏名は記号に置き換え、住所などは伏せています。それ以外は取得した登記事項そのままです。

令和7年8月15日時点の登記記録。個人の氏名は記号に置き換え、住所は省略しています。

ここからは、この甲区を順位番号の順に読んでいきます。

平成29年4月24日、同じ日に登記された2つの仮登記

登記記録(抜粋)2番:売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記と、その付記1号
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
2所有権移転請求権仮登記平成29年4月24日第12149号原因平成29年4月24日売買予約権利者東京都千代田区永田町二丁目9番6号十全ビル406IKUTAHOLDINGS株式会社
付記1号2番所有権移転請求権の移転請求権仮登記平成29年4月24日第12150号原因平成29年4月24日売買予約権利者大阪市北区大淀中一丁目1番88号積水ハウス株式会社

*下線のあるものは抹消事項であることを示す。

受付番号は、2番が第12149号、付記1号が第12150号。
続き番号です。
2件が連件で申請されたことが、ここから読み取れます。

積水ハウスの公表資料によると、この日、売買契約が2つ同時に結ばれました。
1つは、Aさんを名乗る人物から、中間会社であるIKUTA HOLDINGSへの売買。
もう1つが、そのIKUTA HOLDINGSから積水ハウスへの売買です。
積水ハウスの買値は70億円で、手付金の14億円はこの日のうちに支払われています。

2番の登記の目的は「所有権移転請求権仮登記」、原因は「売買予約」です。

1号仮登記と2号仮登記は、テキストで読むとどうしても混ざりますよね。
見分けるときは、「いま、所有権はどこにあるのか」だけを考えてみてください。

売買予約をしただけでは、所有権はまだ売主のところにあります。
買主が持っているのは、予約完結権を行使して「所有権を移転してください」と言える請求権だけです。
所有権はまだ動いていないけれど、請求権の順位は今のうちに確保しておきたい。
それが2号仮登記です(不動産登記法105条2号)。

これに対して1号仮登記は、所有権がもう買主に移転しているのに、登記識別情報などが揃わなくて本登記を申請できない、というときに使います(105条1号)。
所有権がもう動いているなら1号、まだ動いていないなら2号。
西五反田の2番は、予約の段階なので2号です。

実務では、2号仮登記はまさにこういう場面で使われます。
手付金を払ってから残代金の決済までに時間が空く取引で、そのあいだに売主が別の人に売ってしまっても負けないように、順位だけ先に確保しておく。
70億円の取引で手付金を14億円も払うのですから、仮登記をしておくこと自体は、ごく当たり前の判断でした。

仮登記の申請に、登記識別情報は要らない?

ここで、仮登記の申請のしかたを整理しておきます。
「誰が申請するのか」と「何を添付するのか」は別の話なので、分けて見ていきましょう。

まず、誰が申請するのか。
原則は本登記と同じで、仮登記権利者と仮登記義務者の共同申請です。
ただし仮登記には例外があって、仮登記義務者の承諾があるときと、仮登記を命ずる処分があるときは、仮登記権利者が単独で申請できます(107条1項)。

次に、何を添付するのか。
本登記なら登記義務者の登記識別情報が必要ですが、仮登記では、共同申請であっても登記識別情報を提供しなくてかまいません(107条2項)。

仮登記権利者の住所証明情報も不要です。

司法書士試験不動産登記法添付情報

令和2年度 午後の部 第16問 肢1

市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した住所を証する情報(これに代わるべき情報を含む。以下「住所を証する情報」という。)に関する次の記述のうち、正しいものは、どれか。

所有権の移転の仮登記を申請するときは、仮登記の登記権利者の住所を証する情報の提供を要する。

解答と解説を見る(令和2年度 午後の部 第16問 肢1)

解答:この記述は誤り

誤りです。 所有権に関する仮登記の申請においては、仮登記義務者の印鑑証明書は必要ですが、仮登記権利者(申請人)の住所証明情報の提供は不要とされています(本登記の際に提供すれば足りるため)。

タグ:#仮登記#住所を証する情報#住所証明情報#印鑑証明書#所有権#申請人#登記権利者#登記義務者#添付情報

この問題の詳細ページへ(問題ID: R02-PM16-1)

「それなら仮登記は、ほとんど何も出さずに申請できてしまうのでは?」と思うかもしれませんが、そうではありません。
仮登記義務者の印鑑証明書は必要です。
共同申請なら申請書か委任状に、単独申請なら承諾書に、仮登記義務者が実印を押して、印鑑証明書を付けます。

印鑑証明書は、本来、本人でなければまず取れない書類です。
市区町村に実印を登録して、印鑑カードを持って行って、ようやく発行してもらえます。

ということは、4月24日のこの仮登記の時点で、Aさん名義の印鑑証明書がすでに用意されていたことになります。
報道では細かく触れられていませんが、この事件の偽造は、仮登記のための印鑑証明書から始まっていたと考えるのが自然でしょう。

仮登記は、本登記の準備が整うまでのあいだ順位だけを確保しておくための制度ですから、手続を軽くしてあるのは、制度の目的そのものです。
そのかわり、本人が関わっていることを確かめる手段は、仮登記義務者の印鑑証明書にほぼ絞られています。
試験で仮登記の添付情報を聞かれたら、「登記識別情報は不要、印鑑証明書は必要」をまず思い出してください。

「所有権移転請求権の移転請求権仮登記」、読めますか?

2番のすぐ下に付記1号があります。
登記の目的は「2番所有権移転請求権の移転請求権仮登記」。
「なんだこれ? 本当に同じ日本語か?」と感じた方、大丈夫です。
たいていの受験生がここで一度止まります。

これは、「2番所有権移転請求権」の「移転請求権」の「仮登記」、と3つに区切って読みます。

IKUTA HOLDINGSが2番で持っているのは、Aさんに対する所有権移転請求権でした。
積水ハウスはIKUTA HOLDINGSとのあいだで、その請求権を将来こちらに移転してもらう約束をしています。
こちらも原因は売買予約です。
積水ハウスが持っているのは、「請求権を移転してくださいと言える請求権」ということになります。

仮登記された権利の処分は、仮登記の章でもとくに混ざりやすいところです。
パターンは4つあります。

  1. 1号仮登記の所有権を、確定的に移転した(主登記の仮登記)
  2. 1号仮登記の所有権について、移転の予約をした(主登記の仮登記)
  3. 2号仮登記の請求権を、確定的に移転した(付記登記の本登記)
  4. 2号仮登記の請求権について、移転の予約をした(付記登記の仮登記)

丸暗記しようとすると必ず混ざるので、2つの質問に分けて考えてみてください。

1つ目の質問は、動かそうとしているのは所有権か、それとも請求権か、です。
所有権なら主登記、請求権なら付記登記になります。
所有権以外の権利の移転は付記登記でする、と決まっているからです(不動産登記規則3条6号)。

2つ目の質問は、確定的に移転したのか、まだ予約の段階なのか、です。
確定的に移転したのなら本登記、予約なら仮登記です。
ただし、1号仮登記の所有権を確定的に移転した場合は、もとが仮登記なので、移転の登記も仮登記にしかなりません。

西五反田の付記1号に当てはめてみます。
動かそうとしているのは2番の請求権なので、付記登記。
原因は売買予約なので、仮登記。
4番目のパターンです。

1番目のパターンは、平成27年に問われています。

司法書士試験不動産登記法付記登記

平成27年度 午後の部 第19問 肢1

次のアからオまでの登記のうち、付記登記によってするものは、幾つあるか。

仮登記した所有権の移転の仮登記は、付記登記によってする。

解答と解説を見る(平成27年度 午後の部 第19問 肢1)

解答:この記述は誤り

誤りです。仮登記でした所有権の移転の登記は、主登記でされます(不動産登記法66条参照)。

この問題の詳細ページへ(問題ID: H27-PM19-1)

仮登記された「所有権」の移転ですから、付記登記ではなく主登記です。

3番目のパターン、請求権が確定的に移転した場面は、令和7年に出題されました。

司法書士試験不動産登記法仮登記

令和7年度 午後の部 第16問 肢5

市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した住所を証する情報(これに代わるべき情報を含む。以下「住所を証する情報」という。)に関する

Aを所有権の登記名義人とする甲土地について、Bを権利者とし、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合において、売買を原因とするBからCへの所有権移転請求権の移転の登記を申請するときは、Cの住所を証する情報を提供することを要しない。

解答と解説を見る(令和7年度 午後の部 第16問 肢5)

解答:この記述は正しい

正しいです。所有権移転請求権の仮登記をBからCへ移転しても、Cは不動産の所有権を取得するわけではなく、固定資産税の納税義務者にもなりません。Cの住所を証する情報は不要です。

この問題の詳細ページへ(問題ID: R07-PM16-5)

請求権を買っても、まだ所有者になったわけではありません。
固定資産税がかかるわけでもないので、住所証明情報は不要です。

では、この3番目のパターンで、印鑑証明書はどうでしょうか?
登記識別情報は?
過去問ではまだ正面から聞かれていないところですが、市販のどのテキストにも書いてあることでしょう。

3番目のパターンは、付記登記ではあっても、中身は仮登記ではなく通常の登記です。
ですから「仮登記だから軽くなる」というルールは使えません。
申請は共同申請だけです。
登記義務者になる仮登記名義人は、仮登記をしたときに通知された登記識別情報を提供します。
仮登記名義人にも登記識別情報は通知されている、という点は見落としやすいところです。

印鑑証明書も必要です。
所有権に関する仮登記の名義人が登記義務者になるときは、所有権の登記名義人と同じ扱いになるからです(規則47条3号イ)。

これが4番目のパターン、つまり西五反田の付記1号になると、仮登記ですから登記識別情報は不要になります(107条2項)。
印鑑証明書は、こちらでも必要です。
IKUTA HOLDINGSの印鑑証明書が付いていたことになります。

内容証明が届いても、決済は前倒しされた

ここから事件は山場に入ります。

5月に入って、本物のAさんの側から、積水ハウスに内容証明郵便が届きました。
「自分は売買予約などしていない。仮登記を抹消してほしい」という内容です。
1回だけ送られたのかと思いきや、なんと4通も送られていたとのことです。

ところが社内では、これが取引を妨害するための怪文書のようなものだと受け止められたそうです。
さすがに4通も届いているものを怪文書で片づけてしまうのはどうなのだろう、と素人目には感じてしまいます。
5月19日には、建物の内覧にAさんを名乗る人物が現れない、ということも起きていました。

ただ、この時点で積水ハウスは、すでに手付金の14億円を支払っています。
甲区には自社の仮登記もされています。
ここで「相手は偽者かもしれない」と認めることは、14億円を支払った判断そのものが誤りだったと認めることでもありました。
山手線の駅前の600坪という、ほかの会社も狙っていた土地です。
担当者には、立ち止まれない何かがあったのでしょう。

取引は止まるどころか、横やりが入る前に終わらせてしまおうと、7月末に予定していた残代金の決済が6月1日に前倒しされます。

6月1日、残代金が支払われました。
手付金と合わせて、ここまでに支払われた金額は約63億円です。
70億円のうち7億円ほどは留保されていたので、全額ではありません。
同じ日に、所有権移転の本登記が申請されています。

6月9日、法務局はこの申請を却下しました。
63億円の決済に立ち会って、連件の登記を申請して、その8日後に却下の知らせを受ける。
このときの司法書士の顔を、ちょっと見てみたかった気もします。

63億円を支払って、土地は1坪も手に入りませんでした。
積水ハウスがこの件で計上した特別損失は、55億5,900万円です。

登記識別情報を提供できないとき、本登記はどうやって申請するのか?

4月の仮登記は登記されたのに、6月の本登記はなぜ却下されたのでしょうか。

本登記には、登記義務者の登記識別情報が必要でした。
Aさんの土地は平成2年に相続で取得されたものなので、正確には登記済証、いわゆる権利証です。
偽者がこれを持っているはずがありません。

では、登記識別情報を提供できないときは、もう申請できないのでしょうか?
そんなことはありません。
ここは手続が3つ用意されていて、試験でもよく聞かれます(23条)。

  1. 事前通知。登記官が登記義務者に「こういう申請がされていますが、間違いありませんか」と通知を送り、期間内に申出があれば登記する
  2. 資格者代理人による本人確認情報。申請を代理する司法書士などが登記義務者本人と面談し、本人に間違いないことを確認した情報を提供する
  3. 公証人による認証。申請書や委任状について、公証人が本人確認をしたうえで認証する

報道によると、この取引では、偽造されたパスポートを使って公証人の認証まで取得していたとのことです。
6月1日の本登記も、登記済証のかわりに、こうした本人確認の書類を付けて申請されていたと考えられます。

その本人確認のもとになっていた身分証が、偽造でした。
法務局の審査でそれが分かり、申請は却下されます。

仮登記のときは印鑑証明書だけで足りていたものが、本登記になると、登記識別情報か、それに代わる本人確認が求められます。
確かめる段階が1つ増えたところで、偽造が見つかったわけです。

本人確認情報については、令和4年にこんな肢が出ています。

司法書士試験不動産登記法登記識別情報

令和4年度 午後の部 第17問 肢3

甲不動産の所有権の移転の登記(以下「本件登記」という。)の申請に際して申請人が登記義務者の登記識別情報を提供することができない場合における次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。なお、申請人はいずれも自然人とする。

本件登記の申請代理人である司法書士から本人確認情報の提供がされたが、登記官が当該情報の内容を相当と認めないときは、登記官は、本件登記の登記義務者に対して事前通知をすることなく、本件登記の申請を却下しなければならない。

解答と解説を見る(令和4年度 午後の部 第17問 肢3)

解答:この記述は誤り

誤りです。 提供された本人確認情報の内容を登記官が相当と認めない場合、直ちに申請を却下するのではなく、原則的な手続きである「事前通知」の方法によって本人確認を行います。

タグ:#事前通知#却下#本人確認情報#登記官#登記義務者#登記識別情報を提供することができない場合#登記識別情報

この問題の詳細ページへ(問題ID: R04-PM17-3)

本人確認情報の内容を登記官が相当と認めなかったとしても、いきなり却下にはなりません。
原則に戻って、事前通知の手続に進みます。
本人確認情報はあくまで事前通知を省略するためのもの、と位置づけておくと、この肢は迷いません。

積水ハウスの仮登記には、どんな効力があったのか?

「でも、積水ハウスは4月24日に仮登記をしていたはず。仮登記は、こういうときのためのものではないの?」と思いませんか。

ここで、仮登記の効力を確認しておきましょう。

仮登記には、対抗力がありません。
あるのは、順位を保全する効力だけです。
あとで本登記をしたときに、その本登記の順位が仮登記の順位になる(106条)。
仮登記とは、それだけの登記です。

そしてその順位保全の効力も、土台になる契約が有効であってはじめて働きます。
本物のAさんは、売買予約などしていません。
保全するはずの請求権が、最初からどこにも存在していなかったわけです。

つまり2番の仮登記は、存在しない契約について順位を確保していただけで、効力は何もありませんでした。
5番の抹消原因が「解除」でも「合意解除」でもなく「売買予約無効」になっているのは、そのためです。

では、土台の契約が有効だったら、仮登記はどのくらい強いのでしょうか。

司法書士試験不動産登記法仮登記

令和7年度 午後の部 第26問 肢4

仮登記に関する

Aを所有権の登記名義人とする甲不動産について、AからBへの所有権の移転の仮登記がされた後に、AからCへ、CからDへの所有権の移転の登記が順次された場合において、BがAと共同して当該仮登記に基づく本登記を申請するときは、C及びDの承諾を証する情報をいずれも提供しなければならない。

解答と解説を見る(令和7年度 午後の部 第26問 肢4)

解答:この記述は誤り

Cの承諾を証する情報は不要であることから、誤りとなります

この問題の詳細ページへ(問題ID: R07-PM26-4)

仮登記のあとでAからCへ、CからDへと所有権移転登記がされていても、Bが仮登記に基づく本登記をすれば、Dの登記は抹消されます。

ところでこのDの登記、誰が抹消するんでしたっけ?
Bが抹消登記を申請するわけではありません。
登記官が職権で抹消します(109条2項)。

「職権で抹消されるのなら、Dの承諾は要らないのでは?」と考えてしまいそうですが、ここが引っかけどころです。
所有権に関する仮登記の本登記は、登記上の利害関係を有する第三者の承諾がなければ、そもそも申請することができません(109条1項)。
承諾をもらって本登記を申請し、抹消そのものは登記官が職権でする。
この2つはセットで押さえておいてください。

承諾が必要なのは、現在の登記名義人であるDだけです。
Cはもう名義人ではないので、利害関係人には当たりません。
この肢が誤りになるのは、そこでした。

積水ハウスの仮登記を抹消できたのは誰か?

登記記録(抜粋)4番・5番:二段階の抹消
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
42番付記1号所有権移転請求権の移転請求権仮登記の抹消平成29年7月25日第21626号原因平成29年6月13日解除
52番仮登記抹消平成31年4月23日第13461号原因売買予約無効

先に抹消されたのは、付記1号、積水ハウスの仮登記のほうでした。
原因は「平成29年6月13日解除」。
本登記が却下された4日後に、積水ハウスがIKUTA HOLDINGSとの契約を解除した日付です。
抹消の受付は7月25日になっています。

ここで、1つ上の3番を見てください。

登記記録(抜粋)3番:相続による所有権移転
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
3所有権移転平成29年7月4日第19974号原因平成29年6月24日相続共有者(住所省略)持分2分の1B(住所省略)2分の1C

Aさんは6月24日に亡くなりました。
決済の日から、わずか23日後のことです。
7月4日にはBさんとCさんへの相続登記がされていて、付記1号の抹消はそのあとでした。

「所有者が亡くなって相続まで起きているのに、抹消の登記は誰と誰で申請したのだろう?」と気になるところですが、仮登記の抹消にかぎっては、その心配が要りません。
仮登記の登記名義人が、単独で申請できるからです(110条前段)。

この点を問う問題が、平成25年に出ています。
問題文に登記記録の抜粋が付いていて、Aが所有者、Bが2番仮登記の名義人、Eが2番付記1号の名義人という設定です。
西五反田に当てはめるなら、BがIKUTA HOLDINGS、Eが積水ハウスになります。

司法書士試験不動産登記法仮登記

平成25年度 午後の部 第16問 肢4

次のような登記事項の記録(抜粋)がある不動産に関する後記

Eは、2番付記1号所有権移転請求権の移転請求権仮登記の抹消を単独で申請することができる。

解答と解説を見る(平成25年度 午後の部 第16問 肢4)

解答:この記述は正しい

正しいです。仮登記の抹消は、仮登記の登記名義人が単独で申請することができます(不動産登記法110条前段)。2番付記1号の登記は仮登記であり、その登記名義人であるEは、単独でその抹消を申請することができます。

この問題の詳細ページへ(問題ID: H25-PM16-4)

この問題の登記の目的は「2番付記1号所有権移転請求権の移転請求権仮登記」。
西五反田の甲区と、一字一句同じです。
事件の4年前に、まったく同じ形の登記が本試験に出ていたことになります。

積水ハウスが実際に単独で申請したのか、共同で申請したのかは、登記記録からは分かりません。
分かるのは、単独で抹消できる登記だったということです。

では、単独で申請できるなら、添付情報も仮登記のときのように軽くなるのでしょうか?

司法書士試験不動産登記法仮登記

令和4年度 午後の部 第26問 肢4

Aが所有権の登記名義人である甲不動産に売買予約を原因としてBを登記名義人とする所有権移転請求権保全の仮登記(以下「本件仮登記」という。)がされている場合において、次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

Bが売買予約の解除を原因とする本件仮登記の抹消を単独で申請する場合には、本件仮登記が完了した際に通知された登記識別情報を提供することを要しない。

解答と解説を見る(令和4年度 午後の部 第26問 肢4)

解答:この記述は誤り

誤りです。 仮登記の登記名義人(B)が単独で自己の仮登記の抹消を申請する場合(法110条)、Bは登記義務者の立場となるため、原則通り登記識別情報の提供が必要です。

タグ:#仮登記#売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記#登記義務者#登記識別情報#登記識別情報の提供#解除

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軽くなりません。
自分の仮登記を自分で抹消するのですから、立場は登記義務者と同じです。
仮登記をしたときに通知された登記識別情報を提供します。
所有権に関する仮登記なら、印鑑証明書も必要です(規則47条3号イ(5))。

仮登記を「する」ときは登記識別情報が不要で、「抹消する」ときは必要。
ここは逆に覚えてしまいやすいので、気をつけてください。

平成25年の問題には、もう1つ別の付記1号が出てきます。
3番の条件付所有権移転仮登記に付いている付記1号で、Dは、その条件付所有権を譲り受けた人です。

司法書士試験不動産登記法仮登記

平成25年度 午後の部 第16問 肢5

次のような登記事項の記録(抜粋)がある不動産に関する後記

Dは、3番付記1号条件付所有権の移転の登記の抹消を単独で申請することができる。

解答と解説を見る(平成25年度 午後の部 第16問 肢5)

解答:この記述は誤り

誤りです。仮登記された条件付所有権が第三者に移転した場合の3番付記1号の登記は、仮登記ではなく本登記です。仮登記の登記名義人による単独抹消の規定(不動産登記法110条前段)は適用されないため、Dが単独でその抹消を申請することはできません。

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こちらの付記1号は、仮登記された権利が確定的に移転した登記です。
さきほどの4つのパターンでいえば、付記登記ではあるけれど、中身は本登記のほう。
仮登記ではない以上、110条の単独抹消は使えません。

同じ「付記1号」でも、登記の目的の最後に「仮登記」と付いているかどうかで、抹消の方法が変わってきます。
西五反田の付記1号には「仮登記」と書いてあるので、単独で抹消できるほうでした。

身に覚えのない仮登記が、2年近く残ってしまう

付記1号が抹消されても、2番のIKUTA HOLDINGSの仮登記は残ってしまいます。
これが抹消されたのは平成31年4月23日。
付記1号の抹消から、1年9か月もあとのことでした。

相続人のBさんとCさんにしてみれば、相続した土地に、まったく身に覚えのない仮登記が付いたままになっているわけです。
このままでは、買い手が現れても売ることができません。

所有者の側からこの仮登記を抹消しようとすると、方法は3つあります。

  1. 仮登記の名義人と共同で申請する(60条)
  2. 仮登記の名義人から承諾書をもらって、登記上の利害関係人として単独で申請する(110条後段)
  3. 名義人に抹消登記手続を命じる確定判決を得て、単独で申請する(63条1項)

実際にどの方法だったのかは、登記記録には書いてありません。
ただ、事件の経過を思い出してみてください。
仮登記の名義人がこころよく協力してくれたとは、ちょっと考えにくいですよね。
抹消までに1年9か月もかかっていることからしても、訴訟を起こして判決を得たと考えるのが自然でしょう。

ここで、試験対策としてもう一歩考えてみましょう。
西五反田では、付記1号が先に抹消されて、2番があとから抹消されました。
もしこの順番が逆だったら、何が必要になっていたでしょうか?

平成25年の問題に、ちょうどそれを聞いている肢があります(Aが所有者、Bが2番、Eが付記1号でした)。

司法書士試験不動産登記法仮登記

平成25年度 午後の部 第16問 肢3

次のような登記事項の記録(抜粋)がある不動産に関する後記

Aを登記権利者とし、Bを登記義務者として、2番所有権移転請求権仮登記の抹消を申請する場合には、Eの承諾を証するEが作成した情報又はEに対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供することを要しない。

解答と解説を見る(平成25年度 午後の部 第16問 肢3)

解答:この記述は誤り

誤りです。2番仮登記が抹消されると、これを前提とするE名義の2番付記1号の仮登記も抹消されることになります。Eは、2番仮登記の抹消について登記上の利害関係を有する第三者に当たるため、Eの承諾を証する情報又はEに対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供しなければなりません(不動産登記法68条)。

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2番を抹消すれば、2番を土台にしている付記1号も一緒に抹消されます。
ですから付記1号の名義人は、2番の抹消について登記上の利害関係を有する第三者に当たります(68条)。

付記1号が残ったままで2番を抹消しようとしていたら、積水ハウスの承諾書が必要だった、ということです。
実際には付記1号のほうが先に抹消されていたので、この承諾は問題になりませんでした。

それなら、請求権が確定的に移転していた場合、元の名義人の承諾は必要でしょうか。

司法書士試験不動産登記法仮登記

令和7年度 午後の部 第26問 肢2

仮登記に関する

Aを所有権の登記名義人とする甲不動産について、Bを権利者とする所有権移転請求権の保全の仮登記がされた後、売買を原因とするBからCへの当該所有権移転請求権の移転の登記がされている場合において、AがCと共同して当該仮登記及び当該所有権移転請求権の移転の登記の抹消を申請するときは、Bの承諾を証する情報の提供を要しない。

解答と解説を見る(令和7年度 午後の部 第26問 肢2)

解答:この記述は正しい

正しいです。BからCへの移転登記により、所有権移転請求権はCへ完全に移っています。AとCが仮登記及び移転登記を抹消する申請をするなら、もはや権利を有しないBの承諾は必要ありません。

この問題の詳細ページへ(問題ID: R07-PM26-2)

請求権がすっかりCに移転しているなら、Bの手元にはもう何も残っていません。
抹消されても困らない人なので、承諾は不要です。

承諾の要否は、肢ごとに結論を覚えようとするときりがありません。
「この登記が抹消されて困る人が、登記記録の上にまだ残っているか」と考えるようにすると、たいていの肢はその場で答えが出せます。

所有者が亡くなったら、仮登記はどうなるのか?

西五反田では、Aさんが亡くなって相続登記がされ、そのあとで相続人が土地を売りました。
これは普通の流れです。

試験で聞かれるのは、少し違う場面です。
仮登記をしたあとで仮登記義務者が亡くなった場合、本登記の前に、いったん相続登記をしなければならないのでしょうか?

司法書士試験不動産登記法相続

平成26年度 午後の部 第20問 肢1

相続による所有権の移転の登記の申議の要否に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

Aが所有権の登記名義人である甲土地について、農地法所定の許可があったことを停止条件とする所有権の移転の仮登記がされた後、当該許可がある前にAが死亡した場合において、当該仮登記に基づく本登記を申請するときは、その前提としてAの相続人への所有権の移転の登記を申請しなければならない。

解答と解説を見る(平成26年度 午後の部 第20問 肢1)

解答:この記述は誤り

誤りです。農地法の許可を停止条件とする所有権移転仮登記では、許可前に登記名義人が死亡しても、仮登記に基づく本登記の前提として相続登記をする必要はありません。

この問題の詳細ページへ(問題ID: H26-PM20-1)

相続登記は不要です。
仮登記をした時点での売主はAさんで、本登記はその続きだからです。
相続人は、Aさんの義務を引き継いだ者として本登記に協力すればよく、名義をいったん相続人に移す必要はありません。

かりに西五反田の2番が本物の契約にもとづく仮登記だったとしたら、そのあとAさんが亡くなっても、相続登記を挟まずにそのまま本登記ができた、ということになります。

これに対して、仮登記の「権利者」のほうが亡くなった場合は、扱いが変わります。

司法書士試験不動産登記法仮登記

令和4年度 午後の部 第26問 肢1

Aが所有権の登記名義人である甲不動産に売買予約を原因としてBを登記名義人とする所有権移転請求権保全の仮登記(以下「本件仮登記」という。)がされている場合において、次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

本件仮登記がされた後にBが死亡し、その相続人がCのみである場合において、C が売買予約を解除したときは、Cは、BからCへの相続を原因とする所有権移転請求権移転の登記をすることなく、相続を証する情報を提供して、本件仮登記の抹消を申請することができる。

解答と解説を見る(令和4年度 午後の部 第26問 肢1)

解答:この記述は誤り

誤りです。 仮登記名義人(B)が死亡した後、その相続人(C)が予約契約を解除して仮登記を抹消する場合、前提として「相続による所有権移転請求権の移転の登記(付記登記)」を省略することはできません。まず相続登記をした上で、抹消登記を申請する必要があります。

タグ:#仮登記#売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記#契約#所有権#解除

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権利者の側は、相続による請求権の移転登記を先にしなければなりません。

義務者の死亡と権利者の死亡は、結論が逆になるのでとても混ざりやすいところです。
問題文を読むときは、亡くなったのがどちらなのかに、まず印を付けてしまうのがおすすめです。

2番が抹消された20日後、旭化成の仮登記

登記記録(抜粋)6番:始期付の仮登記と、その余白にされた本登記
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
6始期付共有者全員持分全部移転仮登記令和1年5月13日第15296号原因平成29年11月7日売買(始期令和2年1月15日)権利者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社
 共有者全員持分全部移転令和2年1月15日第550号原因令和2年1月15日売買所有者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社

6番には日付が3つ出てきます。
原因の日付が平成29年11月7日、仮登記の受付が令和1年5月13日、そして始期が令和2年1月15日です。

まず契約の日付に注目してください。
積水ハウスが事件を公表したのは、平成29年8月2日でした。
旭化成不動産レジデンスが相続人と売買契約を結んだのは、そのわずか3か月後です。
日本中に知れわたった、いわくつきの土地です。
しかも甲区にはまだIKUTA HOLDINGSの仮登記が付いたままでした。
ほかの会社ならまず手を出しにくい時期に、もう契約を済ませていたことになります。

とはいえ、身に覚えのない仮登記が付いたままの土地に、何十億円もの代金を支払うわけにはいきません。
旭化成の仮登記がされたのは、契約から1年半後の令和1年5月13日。
2番の仮登記が抹消された平成31年4月23日の、20日後です。
抹消されるのを待ち構えていたとしか思えない早さです。

「2番が抹消されたのなら、その時点で代金を払って本登記をすればよかったのでは?」と思いますよね。
ここは、取引の側から考えてみてください。

この規模の土地になると、契約してすぐに決済、とはなりません。
敷地には古い旅館の建物が残っています。
隣の土地との境界も確定させなければなりません。
買主は、そうした条件が整ってから、代金の全額を支払って引渡しを受けたいわけです。
理由は登記記録には書かれていませんが、旭化成と相続人は、所有権が移転する日を令和2年1月15日と決めました。

そうすると、仮登記がされた令和1年5月から令和2年1月までの8か月間、所有権は相続人のところに残ることになります。
そのあいだに、土地が別の誰かに二重に売られたり、差し押さえられたりしたら、困りますよね。

だから、順位だけを先に確保しておく。
これが6番の仮登記です。
登記の目的は「始期付共有者全員持分全部移転仮登記」。
さきほどの見分け方を使ってみてください。
売買契約は成立していますが、所有権はまだ動いていません。
ですからこれも2号仮登記です。
始期付や停止条件付の権利変動が2号に入ることは、105条2号のかっこ書きに書いてあります。

もし8か月のあいだに第三者の登記がされていたら、さきほど解いた令和7年の肢と同じことが起きます。
旭化成が本登記をすれば、あとからされた登記は職権で抹消されます。
数十億円はする土地を、引渡しまでの8か月間、仮登記ひとつで守りきったわけです。

同じ土地に、同じ2号仮登記が2回されました。
1回目は、存在しない契約の上にされた仮登記です。
2回目は、本物の所有者と結んだ契約の上にされた仮登記でした。
仮登記という道具は同じでも、土台があるかどうかで、これだけ結果が変わります。

それにしても、契約に踏み切る時期といい、仮登記をするタイミングといい、旭化成はさすがに商売上手です。

始期付の仮登記は、試験では死因贈与の形でよく出てきます。

司法書士試験不動産登記法仮登記

平成29年度 午後の部 第24問 肢4

仮登記に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

Aを所有権の登記名義人とする不動産について、A及びAの子Bとの間で死因贈与契約が締結された場合には、Bは、Aの承諾を証する情報を提供して、単独で、始期付所有権移転仮登記を申請することができる。

解答と解説を見る(平成29年度 午後の部 第24問 肢4)

解答:この記述は正しい

正しいです。 死因贈与契約が締結された場合、贈与者の死亡を始期とする所有権移転の請求権を保全する目的で、始期付の所有権移転に関する仮登記が認められます(不登法105条2号参照)。仮登記義務者であるAが承諾を証する情報を提供すれば、仮登記権利者Bによる単独申請が可能です(同法107条1項参照)。

タグ:#仮登記#仮登記全般#契約#所有権#抵当権#根抵当権#死因贈与#行政区画の変更#追加設定

この問題の詳細ページへ(問題ID: H29-PM24-4)

令和2年1月15日、始期が到来したその日に本登記がされました。
6番の枠の下半分で、順位番号の欄が空いているところです。
仮登記をしたとき、登記官はそのすぐ下に、本登記をするための余白を設けておきます(規則179条1項)。
本登記はその余白にされるので、順位番号は6番のままです。

「本登記の順位は、仮登記の順位による」(106条)と条文で読んでもぴんと来ないかもしれませんが、実物の登記記録では、同じ枠の中に収まるという形で目に見えます。

旅館の跡地に建ったタワーマンションは、いくらになったのか?

登記記録(抜粋)7番・8番:合筆、そして敷地権である旨の登記
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
7合併による所有権登記令和4年10月12日第25410号所有者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社
8所有権敷地権 建物の表示品川区西五反田二丁目22番地1一棟の建物の名称アトラスタワー五反田令和6年2月6日登記

7番の「合併による所有権登記」は、合筆の登記をしたときに登記官が職権でする登記です(規則107条1項)。
表題部を見ると、22番2・3・5・6が合筆されて、地積は約2,079㎡になっています。

こうして令和6年、地上30階建て、総戸数213戸の「アトラスタワー五反田」が完成しました。

8番の「所有権敷地権」は、この土地の所有権がマンションの敷地権になったことを示す登記です(46条)。
敷地権である旨の登記がされると、土地の甲区は原則としてもう動かなくなります。
これ以降は、それぞれの専有部分の登記記録にされた登記が、土地の持分についても効力を持つからです(73条1項)。

ここで少し寄り道をします。
このマンション、全部でいくらになったと思いますか?

手がかりは登記記録の中にあります。
専有部分の登記記録には、敷地権の割合が「1345012分のいくつ」という形で記録されています。
販売図面を見ると、専有面積55.47㎡の部屋の持分が1345012分の5547、73.56㎡の部屋が1345012分の7356でした。
専有面積を100倍した数字が、そのまま分子になっています。

ということは、分母の1,345,012は、すべての専有部分の面積を合計して100倍した数字です。
全部で13,450.12㎡、坪に直すと約4,068坪。
敷地権の割合から、マンション全体の広さが読み取れてしまうわけです。

新築で分譲されたときの価格は、1坪あたり600万円台の前半が中心だったとされています。
55㎡台の2LDKで約1億800万円、65㎡台の3LDKで約1億2,300万円です。
4,068坪に1坪620万円から650万円を掛けると、およそ250億円から260億円。
非分譲の住戸も含めた粗い計算ですが、これが売上の目安になります。

出ていくほうはどうでしょうか。

まず土地です。
積水ハウスが買おうとした値段は70億円でした。
ただ、この70億円という金額は、当時から相場よりかなり安いと言われていました。
100億円はするという見方もあったそうです。
山手線の駅前の600坪が、相場より何十億円も安く買える。
そう聞けば、どの会社でも前のめりになります。

旭化成がいくらで買ったのかは公表されていません。
実際にはそんなに安くはなかったでしょうから、ここでは70億円から100億円と幅を持たせておきます。

次に建物です。
登記記録の各階の床面積を足すと約20,233㎡、坪にして約6,120坪。
タワーマンションの建築費を1坪150万円から200万円と仮定すると、90億円から120億円ほどになります。

土地と建物を合わせて、160億円から220億円。
売上の目安が250億円から260億円でしたから、販売の経費や金利、隣の土地を買い足した費用を差し引いても、数十億円の単位で利益が出る事業だったらしい、ということは見えてきます。
仮定だらけの計算なので、数字そのものは話半分に聞いてください。

ちなみにこのマンションはその後も値上がりを続けていて、最近の中古の取引では、1坪あたり900万円から1,000万円ほどになっています。
新築のときに1億円台の前半だった部屋が、2年ほどで1億7,000万円前後。
いまの相場で全体を評価し直すと、400億円近い計算になります。

話を試験に戻しましょう。
仮登記と敷地権が交わる論点が、令和7年に出題されています。

司法書士試験不動産登記法仮登記

令和7年度 午後の部 第23問 肢4

敷地権付き区分建物又は敷地権である旨の登記がされている土地についての登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、選択肢のうち、どれか。 なお、建物の区分所有等に関する法律第22条第1項ただし書の規約はないものとし、租税特別措置法等の特例法による税の減免規定の適用はないものとする。

敷地権である旨の登記がされた土地について、その登記がされる前に所有権の移転の仮登記がされている場合において、敷地権である旨の登記がされた後に当該仮登記に基づく本登記を申請するときは、その前提として、敷地権である旨の登記が抹消されていなければならない。

解答と解説を見る(令和7年度 午後の部 第23問 肢4)

解答:この記述は正しい

正しいです。敷地権である旨の登記後は、専有部分と敷地利用権の分離処分が制限されます。既存の仮登記に基づく本登記をするには、あらかじめ敷地権である旨の登記を抹消しておく必要があります。

この問題の詳細ページへ(問題ID: R07-PM23-4)

敷地権である旨の登記がされた土地には、所有権移転の本登記をすることができません(73条2項)。

旭化成の本登記は令和2年、敷地権の登記は令和6年でした。
先に本登記を済ませてから建物を建てているので、何の問題も起きていません。
もし仮登記のままマンションが建って、敷地権の登記までされていたら、本登記の前に、敷地権の登記をいったん抹消しなければなりませんでした。

保存登記なのに「原因 売買」と書いてあるのはなぜか?

このマンションの専有部分を1つ選んで、登記記録を取得してみました。

登記記録アトラスタワー五反田の住戸1室(敷地権付き区分建物)
表題部(一棟の建物の表示)
所在/建物の名称①構造原因及びその日付〔登記の日付〕
品川区西五反田二丁目22番地1アトラスタワー五反田鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付き30階建〔令和6年2月6日〕
表題部(敷地権の目的である土地の表示)
①土地の符号②所在及び地番③地目④地積 ㎡登記の日付
1品川区西五反田二丁目22番1宅地2079:57令和6年2月6日
表題部(専有部分の建物の表示)
家屋番号①種類②構造③床面積 ㎡原因及びその日付〔登記の日付〕
西五反田二丁目22番1の○○○居宅鉄筋コンクリート造1階建○階部分 ○○:○○令和6年1月9日新築〔令和6年2月6日〕
表題部(敷地権の表示)
①土地の符号②敷地権の種類③敷地権の割合原因及びその日付〔登記の日付〕
1所有権1345012分の○○○○令和6年2月2日敷地権〔令和6年2月6日〕
所有者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
1所有権保存令和6年4月26日第○○○○○号原因 令和6年3月23日売買共有者 (住所省略) 持分1000分の745 D (住所省略) 1000分の255 E
権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
1(あ)抵当権設定令和6年4月26日第○○○○○号原因 令和6年3月22日金銭消費貸借令和6年4月26日設定債権額 金○,○○○万円利息 年0・297%(月割計算とし、1月未満の期間は年365日の日割計算)損害金 年14%(年365日の日割計算)債務者 (住所省略) D抵当権者 東京都港区六本木一丁目6番1号 住信SBIネット銀行株式会社
1(い)抵当権設定令和6年4月26日第○○○○○号原因 令和6年3月22日金銭消費貸借令和6年4月26日設定債権額 金○,○○○万円利息 年0・297%(月割計算とし、1月未満の期間は年365日の日割計算)損害金 年14%(年365日の日割計算)債務者 (住所省略) E抵当権者 東京都港区六本木一丁目6番1号 住信SBIネット銀行株式会社

*下線のあるものは抹消事項であることを示す。

個人の氏名は記号に置き換え、住所などは伏せています。それ以外は取得した登記事項そのままです。

令和7年8月15日時点の登記記録。部屋が特定できる値(家屋番号・階・床面積・敷地権の割合の分子・受付番号・債権額)と個人の氏名・住所は伏せています。一棟の建物の各階の床面積は省略しました。

甲区の1番を見てください。

登記記録(抜粋)甲区1番:原因が書かれた所有権保存
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号登記の目的受付年月日・受付番号権利者その他の事項
1所有権保存令和6年4月26日第○○○○○号原因 令和6年3月23日売買共有者 (住所省略) 持分1000分の745 D (住所省略) 1000分の255 E

「あれ、保存登記に登記原因なんてあったっけ?」と思った方は、よく勉強されています。
所有権保存の登記には、ふつう登記原因がありません。
ところがこの登記には、「原因 令和6年3月23日売買」と書いてあります。

これは、区分建物に特有の保存登記です。
区分建物では、表題部所有者から直接買った人が、自分の名義で保存登記を申請することができます(74条2項)。

分譲マンションでは、分譲会社が何百戸もの保存登記をしてから1戸ずつ移転登記をする、という手間を省くために、買主が直接保存登記をするのが通常です。
条文で読むと例外のように見えますが、現実のマンションではこちらが普通の姿です。

敷地権付き区分建物の場合、この保存登記は、土地の持分が移転したという意味もあわせ持つことになります。
だから登記原因を記録しますし、敷地権の登記名義人の承諾も必要になります。

司法書士試験不動産登記法登記申請

令和4年度 午後の部 第15問 肢4

登記の原因に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

敷地権付き区分建物について、敷地権の登記名義人の承諾を得て表題部所有者から所有権を取得した者が所有権の保存の登記を申請する場合には、その登記の原因を「保存」とすることができる。

解答と解説を見る(令和4年度 午後の部 第15問 肢4)

解答:この記述は誤り

誤りです。 敷地権付き区分建物について、法74条2項により表題部所有者から取得した者が保存登記をする場合、その取得原因(「売買」など)を登記原因として記載します。「保存」とはしません。

タグ:#所有権#所有権の保存の登記#敷地権#敷地権付き区分建物#登記の原因#表題部#登記申請

この問題の詳細ページへ(問題ID: R04-PM15-4)

表題部も見ておきましょう。

登記記録(抜粋)敷地権の表示と、下線が引かれた表題部所有者
表題部(敷地権の表示)
①土地の符号②敷地権の種類③敷地権の割合原因及びその日付〔登記の日付〕
1所有権1345012分の○○○○令和6年2月2日敷地権〔令和6年2月6日〕
所有者東京都千代田区神田神保町一丁目105番地旭化成不動産レジデンス株式会社

*下線のあるものは抹消事項であることを示す。

表題部所有者の旭化成不動産レジデンスに、下線が引かれています。
保存登記がされると、表題部所有者に関する登記事項は抹消されるからです(規則158条)。

では、この専有部分が転売されて2人目の買主が現れたとき、その人も74条2項で保存登記ができるのでしょうか?

司法書士試験不動産登記法所有権

令和7年度 午後の部 第23問 肢2

敷地権付き区分建物又は敷地権である旨の登記がされている土地についての登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、選択肢のうち、どれか。 なお、建物の区分所有等に関する法律第22条第1項ただし書の規約はないものとし、租税特別措置法等の特例法による税の減免規定の適用はないものとする。

Aを表題部所有者とする所有権の登記がない敷地権付き区分建物がAからBへ、BからCへと順次売却された場合には、Cは、当該区分建物について自己を登記名義人とする所有権の保存の登記を申請することができる。

解答と解説を見る(令和7年度 午後の部 第23問 肢2)

解答:この記述は誤り

誤りです。不動産登記法74条2項により保存登記を申請できる「表題部所有者から所有権を取得した者」は、表題部所有者から直接取得した者をいいます。Bから取得したCは自己名義の保存登記を申請できません。

この問題の詳細ページへ(問題ID: R07-PM23-2)

できません。
74条2項を使えるのは、表題部所有者から直接取得した人だけです。

乙区には、順位番号が「1(あ)」「1(い)」となっている抵当権が2つ並んでいます。
同じ受付番号で同時に申請された、同順位の抵当権です。
共有者のDさんとEさんがそれぞれ債務者になっていて、夫婦などで組むペアローンの形だと分かります。

仮登記は順位を確保してくれる。でも、相手が本物かどうかは教えてくれない

最初に見た甲区に、もう一度戻ってみてください。
はじめに見たときよりも、ずっと読めるようになっているのではないでしょうか。

  1. 2番は、売買予約が原因なので2号仮登記。登記識別情報は不要だが、仮登記義務者の印鑑証明書は必要
  2. 付記1号は、請求権を動かすから付記登記、予約だから仮登記。仮登記名義人の印鑑証明書は必要で、登記識別情報は不要
  3. 本登記には登記識別情報が必要。提供できないときは、事前通知、資格者代理人の本人確認情報、公証人の認証のどれか
  4. 4番。仮登記の名義人は、自分の仮登記を単独で抹消できる。このときは登記識別情報が必要
  5. 5番。土台の契約が無効なら、仮登記には何の効力もない。付記1号が先に抹消されていたので、承諾書は不要だった
  6. 6番。始期付も2号仮登記。本登記は余白にされて、順位は仮登記のまま
  7. 8番。敷地権である旨の登記がされると、土地の甲区は原則として動かなくなる

仮登記は、順位を確保しておくための登記です。
目の前の売主が本物かどうかまでは、教えてくれません。

相場よりずっと安い一等地の話が来て、手付金を払い、甲区に自社の名前が登記される。
そこまで進むと、人はなかなか立ち止まれないのかもしれません。
内容証明が4通届いても、内覧に売主が現れなくても、取引は前に進んでいきました。

その2年後、同じ土地に、同じ2号仮登記がもう一度されます。
こちらは約束の日にきちんと本登記になり、いまは30階建てのタワーマンションが建っています。

仮登記の問題で手が止まったら、西五反田の甲区を思い出してみてください。
2番は誰で、付記1号は誰で、どちらが先に抹消されて、最後に本登記までたどり着いたのは誰だったのか。
それが言えるなら、その肢はきっと解けます。

参照した資料

  • 土地の全部事項証明書(品川区西五反田二丁目・令和7年8月15日取得)
  • 区分建物の全部事項証明書(アトラスタワー五反田の住戸1室・令和7年8月15日取得)
  • 積水ハウス株式会社「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」(平成29年8月2日)
  • 積水ハウス株式会社 調査対策委員会「調査報告書」(平成30年1月24日付・令和2年12月公表)
  • 不動産登記法・不動産登記規則の現行条文

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