リブセンスの登記簿で読む自己株式の処分|司法書士試験の過去問19問で確認
公開・掲載過去問 19問
この記事の内容は、対話形式の動画でも解説しています。
2026年8月21日、リブセンスが「従業員に対する譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分」を発表しました。従業員13名に、自社の株式16,900株を報酬として割り当てるという内容です。
企業ニュースとしては、大きく扱われる発表ではないかもしれません。ただ、司法書士試験の目で読むと、この一枚に募集株式の発行等の論点がほとんど詰まっていました。
自己株式の処分とは何なのか。誰が決めるのか。なぜ現金ではなく、金銭債権をわざわざ現物出資するのか。現物出資なのに、どうして検査役が出てこないのか。そして、この「譲渡制限付株式」は、会社法でいう譲渡制限株式のことなのか。
募集株式の発行のところは、条件分岐が多すぎて、途中で自分がどこにいるのか分からなくなる分野です。公開会社なのか、そうでないのか。株主割当てなのか、第三者割当てなのか。金銭なのか、現物なのか。そこに有利発行と検査役が乗ってきます。この記事では、その分岐を、実際の会社の上で一本だけたどってみます。
そしてもう一つ。せっかくなので、リブセンスの登記事項証明書を実際に取得しました。
試験問題では「会社法上の公開会社である甲株式会社は、取締役会設置会社であり」と、前提が一行で与えられます。でも実務では、その前提は登記簿を取って自分で確かめるものです。ですから、条文を当てはめるたびに、その論点が登記簿のどの欄に現れるのか(あるいは現れないのか)を、実物で合わせて見ていきます。
公開会社かどうかは、どの欄を見れば分かるのか。役員の任期は、どこに残っているのか。会社が公告を出すとき、どこに何が書いてあるのか。そして今回の自己株式の処分で、登記簿はどこが動くのか。
この記事は司法書士試験のイメージづくりを目的とした教材です。投資判断を勧めるものではありません。掲載する登記事項は2026年8月21日に取得した履歴事項全部証明書の内容ですが、個人情報の配慮から、役員の氏名は代表取締役を除いてA〜Gに置き換え、代表取締役の住所は市区町村までにとどめています。
リブセンスという会社
先に、どういう会社かを短く見ておきます。ここを知っておくと、今回の開示の意味が少し変わって見えます。
設立は2006年2月。創業したのは村上太一さんという方で、当時、早稲田大学の1年生でした。その年の4月に、ジョブセンスというアルバイトの求人サイトを始めます。
当時の求人サイトは、お店や会社が広告料を払って求人を載せてもらうのが当たり前でした。ジョブセンスは、掲載自体を無料にして、実際に採用が決まったときだけ課金する成功報酬型にします。そのうえ、採用が決まったとき、応募した人のほうにもお祝い金を支払いました。
求人サイトは企業からお金をもらうもの、という当たり前をひっくり返した形です。会社は伸びて、2011年12月に東証マザーズへ上場します。このとき村上さんは25歳と1か月で、上場企業の社長として当時の史上最年少でした。翌2012年10月には東証一部へ市場を変更しています。
いまは、マッハバイト(ジョブセンスから改称)、企業の口コミが見られる転職会議、ITエンジニア向けの転職ドラフト、そして2015年に始まった不動産情報サービスのイエシルを運営しています。掲げている言葉は「あたりまえを、発明しよう。」です。
応募した人にお金を払った会社が、今度は自分のところで働いている従業員に株を渡すことにしました。その手続を書いたのが、今日読む一枚です。
2026年8月21日に出た、一枚の開示
タイトルは「従業員に対する譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分に関するお知らせ」です。長いタイトルですが、この一行に今日の論点がほとんど入っています。
渡す相手は、リブセンスの従業員13名(雇用型執行役員を含む)。渡す株は普通株式16,900株。1株あたり112円で、総額1,892,800円です。単純に人数で割ると1人あたり1,300株、金額にして145,600円という規模感になります。ただし、実際に誰が何株ずつなのかまでは開示されていません。
条件が付いています。この株は2026年11月26日から2031年7月31日まで、譲ることも担保に入れることもできません。開示では約5年と書かれています。それとは別に、払込期日から1年間、会社かグループ会社に在籍していることが解除の条件になっています。
1年というのは、解除してもらえる資格を得るための期間。5年というのは、実際に売れるようになるまで待つ期間です。1年勤めれば資格は確定し、5年後の満了日に全部の制限が外れます。
素朴に読めば、会社が従業員に株をあげる、という話です。ところが会社法には「あげる」という手続が用意されていません。だからこの会社は、かなり回り道をしています。
まず、登記簿をそのまま見てみる
条文の話に入る前に、登記簿を一度そのまま眺めてみましょう。試験問題では「甲株式会社は取締役会設置会社であり」と一行で与えられる前提が、実物ではどう書かれているのかを見ておくと、あとの話が早くなります。
| 会社法人等番号 | 0110-01-063308 | |
|---|---|---|
| 商 号 | 株式会社リブセンス | |
| 本 店 | 東京都港区海岸一丁目7番1号 | |
| 電子提供措置 に関する規定 | 当会社は株主総会の招集に際し、株主総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとるものとする。 令和4年9月5日登記 | |
| 公告をする方法 | 当会社の公告は、電子公告とする。 https://www.livesense.co.jp/ir/ ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、日本経済新聞に掲載して行う。 | |
| 会社成立の年月日 | 平成18年2月8日 | |
| 目 的 | 1 インターネットを媒体としたコンテンツ配信 2 インターネット及び通信回線を通じたアプリケーション・ソフトウェアの企画・販売 3 インターネットでの広告業 4 コンピュータシステム開発 5 各種企業のIT化に関する診断及び指導 6 広告代理業 7 求人採用活動に関する広告・宣伝及びコンサルティング 8 人材の職業適性能力の開発 9 人材育成のための教育事業並びにカウンセリング 10 労働者派遣業及び民営職業紹介業並びにその代理店業務 11 インターネットのドメイン取得代行業務 12 インターネット及びカタログによる通信販売及び仲介 13 国内及び海外で提供されている各種インターネットサービスに関する調査、研究及びそれらの情報提供業務 14 求人・求職に関する市場調査、資料作成並びに情報提供業務 15 宅地建物取引業 16 不動産の売買、賃貸、仲介、斡旋及び管理 17 電子商取引及び電子決済システムの企画、開発、設計、製造、販売、賃貸、運用及びその代理業 18 電気通信事業法に基づく電気通信事業 19 キャラクター商品の企画、開発及び著作権、意匠権、商標権の管理、使用許諾、譲渡並びにこれらの仲介、代理業 20 古物売買業 21 有価証券の運用、投資、売買、保有 22 投資業並びに投資顧問業 23 各種マーケティング業務 24 経営コンサルティング業 25 前各号に附帯する一切の業務 | |
| 単元株式数 | 100株 | |
| 発行可能株式総数 | 9600万株 | |
| 発行済株式の総数 並びに種類及び数 | 発行済株式の総数 2816万株 | |
| 資本金の額 | 金2億3721万9000円 | |
| 株主名簿管理人の 氏名又は名称及び 住所並びに営業所 | 東京都千代田区丸の内一丁目4番5号 三菱UFJ信託銀行株式会社 証券代行部 | |
| 役員に関する事項 | 取締役 村上太一 令和8年3月25日重任 取締役 A 令和8年3月25日重任 取締役 B 令和8年3月25日重任 取締役 C 令和8年3月25日重任 取締役 D 令和8年3月25日重任 東京都○○区 代表取締役 村上太一 令和8年3月25日重任 監査役 E(社外監査役) 令和5年3月30日重任 監査役 F 令和5年3月30日重任 監査役 G(社外監査役) 令和5年3月30日重任 会計監査人 有限責任監査法人トーマツ 令和8年3月25日重任伏せ字登記簿には過去の就任・重任もすべて残る(下線が引かれた行=抹消事項)。ここでは直近の記録だけを抜き出している。 | |
| 取締役等の会社に 対する責任の免除 に関する規定 | 当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役会の決議をもって、同法第423条第1項の取締役(取締役であった者を含む。)の損害賠償責任を、法令の定める範囲内で、免除することができる。 当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役会の決議をもって、同法第423条第1項の監査役(監査役であった者を含む。)の損害賠償責任を、法令の定める範囲内で、免除することができる。 | |
| 非業務執行取締役等の 会社に対する責任の 制限に関する規定 | 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、同条同項が規定する取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)との間に、同法第423条第1項の損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限定額は、法令の定める額とする。 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、監査役との間に、同法第423条第1項の損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限定額は、法令の定める額とする。 | |
| 取締役会設置会社 に関する事項 | 取締役会設置会社 | |
| 監査役設置会社 に関する事項 | 監査役設置会社 | |
| 監査役会設置会社 に関する事項 | 監査役会設置会社 | |
| 会計監査人設置会社 に関する事項 | 会計監査人設置会社 | |
| 登記記録に関する 事項 | 令和4年3月30日東京都品川区上大崎二丁目25番2号から本店移転 令和4年4月25日登記 | |
印のない値は取得した登記事項そのままです。伏せ字は個人情報のため置き換えた欄です。
実際に取得した登記事項証明書の内容です。個人情報の配慮から、役員の氏名は代表取締役を除いてA〜Gに置き換え、代表取締役の住所は市区町村までにとどめています。それ以外の記録事項は登記簿のとおりです。役員区は、直近の記録だけを抜き出しています。
左が登記の見出しで、右が記録された事項です。目的が25号まであること、責任の免除や責任の制限の規定が条文番号ごと転記されていること。試験の問題文では絶対に出てこない密度で書かれています。
ここから先は、論点ごとに、この登記簿のどの欄を見ればよいのかを抜き出していきます。
公告をする方法には、URLとただし書まで載る
いきなり脇道のようですが、公告の欄から入ります。ここは論点が三つ重なっていて、実物を見るのがいちばん早い場所です。
| 公告をする方法 | 当会社の公告は、電子公告とする。 https://www.livesense.co.jp/ir/ ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、日本経済新聞に掲載して行う。 | |
|---|---|---|
電子公告を選ぶと、ウェブサイトのアドレスも登記される。末尾のただし書は、電子公告ができないときの予備的公告方法。
一行目、当会社の公告は電子公告とする。二行目にウェブサイトのアドレス。三行目から、事故その他やむを得ない事由によって電子公告ができない場合は日本経済新聞に掲載する、というただし書です。
まず、アドレスの扱いです。定款には何をどこまで書く必要があるでしょうか。
令和3年度 午前の部 第34問 肢1
会社の公告に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
会社は、公告方法を電子公告とする場合には、定款で、電子公告を公告方法とする旨の定めのほか、電子公告に用いるウェブサイトのアドレスも定めなければならない。
定款には「電子公告を公告方法とする」とだけ書けばよく、アドレスまでは要りません。それでいて、アドレスは登記事項です。定款に書くこととと登記することがずれている、めずらしい場面です。理由も納得できます。アドレスが変わるたびに定款変更の株主総会を開くのは大変ですが、取引の相手方はどこを見ればよいか知る必要があるからです。
次に、三行目のただし書です。これは予備的公告方法と呼ばれます。
平成29年度 午後の部 第34問 肢1
株式会社(特例有限会社を除く。)の公告方法又は貸借対照表の電磁的開示のためのウェブページのアドレスの変更の登記の申請に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
公告方法を官報に掲載する方法としている会社が、公告方法を電子公告とする変更の登記を申請する場合において、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の予備的公告方法を定めたときは、その登記の申請もしなければならない。
電子公告はサーバが落ちれば止まります。そのときに備えて、官報か日刊新聞紙のいずれかを予備として定めておくことができ、定めたらそれも登記します。リブセンスは日本経済新聞、つまり日刊新聞紙のほうを選んでいます。
そして三つ目。ここがいちばん試験に出ます。この会社は電子公告を定めているのだから、債権者保護手続もウェブサイトで済むのでしょうか。
令和3年度 午前の部 第34問 肢3
会社の公告に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
株式会社が資本金の額の減少をする場合には、当該株式会社は、その定款で電子公告を公告方法とする旨を定めているときであっても、官報による公告をしなければならない。
済みません。資本金の額の減少や合併のように債権者を保護する必要がある場面では、定款で何を定めていようと、官報による公告が別途必要です。しかも、ここには続きがあります。官報に加えて、定款で定めた公告方法(電子公告や日刊新聞紙)でも公告すれば、知れている債権者への各別の催告を省略できます。
つまりリブセンスがもし会社分割や減資をするなら、官報と自社サイトの二重公告で各別催告を省くという選択肢を持っている。その資格が、この一欄から読み取れます。
株式の数は、三つの欄に分かれている
次は株式の数です。試験では「発行済株式の総数」だけを見がちですが、登記簿では三つの欄に分かれています。
| 単元株式数 | 100株 | |
|---|---|---|
| 発行可能株式総数 | 9600万株 | |
| 発行済株式の総数 並びに種類及び数 | 発行済株式の総数 2816万株 | |
発行可能株式総数9600万株に対し、発行済株式の総数は2816万株。公開会社では、発行可能株式総数は発行済株式の総数の4倍を超えられない。
単元株式数が100株。発行可能株式総数が9600万株で、発行済株式の総数が2816万株です。
単元株式数100株というのは、100株を1単元として1個の議決権を与えるという仕組みです。今回従業員に渡される16,900株は、単元でいえば169単元にあたります。
そして、上の二つの数字には関係があります。公開会社では、発行可能株式総数は発行済株式の総数の4倍を超えてはいけません。2816万株の4倍は11,264万株ですから、9600万株はその範囲に収まっています。
この4倍というしばりは、会社が株主総会を通さずに増やせる株の量に上限をかけるためのものです。取締役会だけで新株を出せる公開会社だからこそ、青天井にはできない、という発想ですね。だから、非公開会社が公開会社になるときには、この点の帳尻を合わせなければなりません。
令和4年度 午後の部 第29問 肢1
株式に関する登記についての次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
株式の譲渡制限に関する定めの廃止による変更の登記の申請をする場合において、登記簿上、発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍を超えているときは、当該申請と併せて、発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍を超えない範囲とする発行可能株式総数又は発行済株式の総数を変更する登記の申請をしなければならない。
譲渡制限を外す登記と、発行可能株式総数を直す登記。会社法の要件が、そのまま登記申請の同時申請義務として現れる場面です。
自己株式は、登記簿のどこにも出てこない
もう一度、発行済株式の総数の欄を見てください。2816万株と記録されています。会社が持っている自己株式も、この総数に含まれています。ただし、そのうち何株が会社の手元にあるのかは、登記事項ではありません。それは決算書や有価証券報告書で確認する情報です。
会社が自分の株を持っていても、その株には議決権がありません。剰余金の配当も受け取れません。手元にある間は、眠っているような状態です。その眠っている株が従業員に渡った瞬間に、議決権も配当も付いた普通の株として目を覚まします。
令和2年度 午前の部 第33問 肢1
株式と社債との異同に関する次のアからオまでの記述のうち正しいものの組合せはどれか。
株式会社は、自己株式については、株主総会における議決権を有しないが、その有する自己の社債については、社債権者集会における議決権を有する。
株と社債で扱いが分かれる、代表的な場面です。ここは後半の相殺の話にもつながるので、頭の片隅に置いておいてください。
もう一つ、自己株式には「いつまでに処分しなさい」という決まりがありません。会社は持ったままでいられます。だからリブセンスも、必要になったこのタイミングで、手元の株を使えるわけです。
「株式の譲渡制限に関する規定」が無い、という証拠
ここから、今回の処分を誰が決めたのかに入ります。開示には「本日付当社取締役会決議において」と書かれていて、株主総会という言葉は一度も出てきません。
募集株式の発行は、原則としては株主総会の特別決議です。それが取締役会で足りるのは、リブセンスが会社法上の公開会社だからです。
では、公開会社かどうかは、どこを見れば分かるのでしょうか。ここが、登記簿を見る意味がいちばん出るところです。
| 株式の譲渡制限に関する規定 | この会社の登記簿には、この欄がありません。 |
|---|---|
| 発行可能種類株式総数及び 発行する各種類の株式の内容 | この会社の登記簿には、この欄がありません。 |
実際に取得した登記事項証明書に、この二つの見出しは一度も現れない。譲渡制限が無い=会社法上の公開会社であり、種類株式も発行していない(普通株式のみ)ことが確認できる。
欄が「無い」ことが答えです。 定款で「当会社の株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」と定めると、その内容が「株式の譲渡制限に関する規定」という見出しの欄に登記されます。実際に取得した登記事項証明書を最初から最後まで読んでも、この見出しは一度も現れません。譲渡制限が付いていない会社、つまり公開会社である、ということです。
ついでに、もう一つの見出しも現れていません。種類株式を発行している会社なら「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」という欄が並びます。それも無いので、リブセンスは種類株式発行会社ではなく、普通株式だけを発行している会社だと分かります。この点は、後半の譲渡制限付株式の話で効いてきます。
試験の問題文では「会社法上の公開会社である甲株式会社は」と最初から教えてもらえます。しかし実務では、登記簿を取って、この欄があるかないかを自分で確かめるところから始まります。
公開会社であることが、そのまま次の分岐に効いてきます。
令和2年度 午前の部 第28問 肢1
会社法上の公開会社における募集株式の発行に関する次のアからオまでの記述のうち正しいものの組合せはどれか。
会社法上の公開会社がその発行する株式を引き受ける者の募集において株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合には、募集株式の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であるときであっても、株主総会の特別決議を経る必要はない。
解答と解説を見る(令和2年度 午前の部 第28問 肢1)
有利発行というのは、一部の人だけが得をする形を心配している制度です。株主全員に平等に割り当てるなら、たとえ安く出しても誰も損をしないので、株主総会の出番がありません。比べる相手がいて、初めて有利かどうかが決まります。
どの機関を置いているかも、登記簿に書いてある
公開会社であることのほかに、もう一つ確かめておきたいことがあります。この会社が取締役会を置いているかどうかです。
| 取締役会設置会社 に関する事項 | 取締役会設置会社 | |
|---|---|---|
| 監査役設置会社 に関する事項 | 監査役設置会社 | |
| 監査役会設置会社 に関する事項 | 監査役会設置会社 | |
| 会計監査人設置会社 に関する事項 | 会計監査人設置会社 | |
登記簿には、取締役会設置会社であること、監査役設置会社であること、監査役会設置会社であること、会計監査人設置会社であることが、それぞれ別の欄として並びます。公開会社は取締役会を置かなければならないので、この二つはセットで現れます。
機関設計が分かると、決議機関も、割当てを決める機関も決まります。募集事項を決めるのは取締役会。誰に何株割り当てるかを決めるのも取締役会です。開示に「本日付当社取締役会決議において」としか書かれていないのは、この二つが同じ機関で完結しているからです。
なお、公開会社が取締役会で募集事項を決めた場合には、株主に知らせる手続もあります。払込期日の2週間前までに募集事項を通知する、という決まりです。もっとも上場企業には株主が何万人といますから、この通知は公告で代えることができます。今回の開示は、決議が8月21日で払込期日が11月26日ですから、期間としてはかなり余裕があります。
役員の任期は、重任の年月日に現れる
役員区は、登記簿の中でいちばん情報量の多いところです。そして、任期という目に見えないものが、日付として目に見える形で残っています。
| 役員に関する事項 (村上太一氏と 監査役E氏の履歴) | 取締役 村上太一 令和4年3月30日重任 取締役 村上太一 令和5年3月30日重任 取締役 村上太一 令和6年3月28日重任 取締役 村上太一 令和7年3月26日重任 取締役 村上太一 令和8年3月25日重任 ───────────────────────── 監査役 E 平成31年3月28日重任 監査役 E 令和5年3月30日重任 ───────────────────────── 会計監査人 トーマツ 令和7年3月26日重任 会計監査人 トーマツ 令和8年3月25日重任伏せ字 | |
|---|---|---|
取締役と会計監査人は毎年3月に重任している。監査役は平成31年3月から令和5年3月まで飛んでいる。
上半分を見てください。取締役の村上さんは、令和4年、5年、6年、7年、8年と、毎年3月の定時株主総会で重任しています。取締役の任期は原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までですが、定款で短縮できます。毎年重任しているということは、この会社が任期を1年に定めている、ということです。
下半分の監査役はどうでしょうか。平成31年3月28日の次が、令和5年3月30日です。間が4年空いています。監査役の任期は4年で、こちらは定款で短縮できません。監査役の地位を安定させて、取締役から独立して監査できるようにするためです。
同じ登記簿の同じ欄に、1年で回るものと4年で回るものが並んでいる。任期の長短を、条文の数字ではなく年表として見られるのは、実物ならではです。
ちなみに、取締役の任期を1年に短縮している会社が、あとから2年に戻したくなったらどうなるでしょうか。
令和2年度 午前の部 第29問 肢5
取締役の任期に関する次のアからオまでの記述のうち誤っているものの組合せはどれか。
会社法上の公開会社である監査役設置会社において、取締役の任期を選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする定款の定めについて、取締役の任期を選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする定款の変更をした場合には、当該定款の変更の効力が生じた時に現に在任している取締役の任期は、当該定款の変更の後の定款で定めた任期となる。
いま在任している取締役の任期まで、変更後の任期に伸びます。任期を縮める方向とは扱いが違うので、ここは意識して覚えたいところです。
そして、いちばん下の会計監査人です。トーマツも毎年重任しています。会計監査人の任期は1年ですが、独特の仕組みがあります。
令和2年度 午後の部 第29問 肢4
株式会社の役員等の変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
会計監査人設置会社において、会計監査人が選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会において別段の決議がされなかったことにより再任されたものとみなされた場合には、会計監査人の重任による変更の登記の申請書には、当該会計監査人が就任を承諾したことを証する書面の添付を要しない。
定時株主総会で「再任しない」と決めなければ、自動的に再任されたものとみなされます。決議をしていないので、就任承諾書を添付する必要もありません。それでも重任の登記は必要です。何も起きていないように見えて、登記簿は毎年動いているわけです。
就任と重任、そして代表取締役の住所
登記簿の役員区には、就任と重任という二つの言葉が出てきます。
| 役員に関する事項 (就任と重任) | 取締役 C 令和4年3月30日就任 取締役 D 令和5年3月30日就任 監査役 G(社外監査役) 平成31年3月28日就任 ───────────────────────── 取締役 村上太一 令和8年3月25日重任 監査役 E(社外監査役) 令和5年3月30日重任伏せ字新しくその地位に就いたときは「就任」、続けて選ばれたときは「重任」と記録される。 | |
|---|---|---|
新しくその地位に就いたときが就任、任期満了と同時に続けて選ばれたときが重任です。取締役Cは令和4年3月30日に、取締役Dは令和5年3月30日に就任しています。つまり、この4年ほどの間に、取締役が2人入れ替わっている(増えている)ことが、この2行から読み取れます。
登記簿には過去の記録がすべて残ります。退任した人の行は下線が引かれて残り、抹消されたことが分かるようになっています。だから、いま誰が役員かだけでなく、いつ誰が入って、いつ誰が出たのかという会社の履歴が読めます。
もう一つ、役員区で試験によく出るのが代表取締役の住所です。
| 役員に関する事項 (代表取締役の 住所の記録) | 東京都○○区…… 令和7年3月26日重任 代表取締役 村上太一 東京都○○区…… 令和7年7月7日住所移転 代表取締役 村上太一 令和7年7月15日登記 東京都○○区…… 令和7年12月20日住所移転 代表取締役 村上太一 令和7年12月25日登記伏せ字住所そのものは伏せているが、住所移転を原因とする登記が2回入っていることは登記簿のとおり。 | |
|---|---|---|
平取締役は氏名だけが登記されますが、代表取締役については住所も登記事項です。だから、代表取締役が引っ越すと、それだけで変更登記が必要になります。リブセンスの登記簿には、令和7年に住所移転を原因とする登記が2回入っています。
引っ越さなくても登記が必要になる場合もあります。
平成25年度 午後の部 第32問 肢1
株式会社の取締役又は代表取締役の変更の登記の申請に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
住居表示の実施により代表取締役の住所に変更があった場合には、代表取締役の住所の変更の登記を申請しなければならない。
解答と解説を見る(平成25年度 午後の部 第32問 肢1)
解答:この記述は正しい
住居表示の実施によって、代表取締役の住所に変更が生じた場合には、その変更登記を申請する必要があります。従って、本選択肢は正しいです。
この問題の詳細ページへ(問題ID: H25-PM32-1)
住居表示の実施で町名や番地の付け方が変わった場合も、住所の変更として登記します。本人は動いていないのに登記簿が動く、という場面です。
なお、令和6年10月からは、一定の要件のもとで代表取締役等の住所を登記事項証明書に表示しない措置が使えるようになりました。登記されていることと、証明書に表示されることが、分かれたわけです。
有利発行かどうかは、登記簿にも申請書にも出てこない
開示の話に戻ります。文書の最後、4番の項目には「払込金額の算定根拠及びその具体的内容」という見出しで、けっこう長い説明が置かれています。
決議した日の前営業日である2026年8月20日の東証終値、112円をそのまま使ったこと。恣意性を排除するためであること。そして「特に有利な価額には該当しないと考えております」と結んでいます。
会社が値段の決め方をここまで丁寧に説明しているのは、有利発行に当たると株主総会の特別決議が必要になるからです。過去1か月の平均を使うといった決め方もある中で、いちばん動かしようのない数字を選んでいます。
ここまでは会社法の話です。では、登記の場面ではどうなるでしょうか。
令和3年度 午後の部 第30問 肢5
募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。 なお、定款に別段の定めはないものとする。
会社法上の公開会社が株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行の場合において、募集事項として定めた払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であるときは、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、株主総会の特別決議に係る議事録を添付しなければならない。
解答と解説を見る(令和3年度 午後の部 第30問 肢5)
解答:この記述は誤り
誤りです。公開会社でも、払込金額が特に有利な金額である場合は、募集事項の決定に株主総会の特別決議を要します(会社法201条1項、199条2項、309条2項5号)。もっとも、その議事録を登記の申請書に添付することは要しません(昭30.6.26民甲1333号)。申請書から有利発行か否かを判断することが困難であり、特別決議を欠いても新株発行の無効原因とならないためです。
タグ:#募集株式の発行による変更の登記#株式#株主総会#公開会社#定款#登記#特別決議#募集株式の発行等
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会社法では株主総会の特別決議が必要なのに、登記申請書にはその議事録を添付しない。 申請書を見ても有利発行かどうかを登記官が判断するのは難しいこと、そして特別決議を欠いても新株発行の無効原因にはならないことが理由とされています。
会社法で必要な行為と、登記の添付書面は別。この分野を通じて何度も出てくる考え方です。
なぜ現金を渡さないのか
ここからが今回のいちばんの山場です。開示にはこう書かれています。
対象従業員は、支給された金銭債権の全部を現物出資財産として払込み、当社が本自己株式処分により割り当てる普通株式を引き受けることとなります。
金銭債権を現物出資、という言葉に引っかかると思います。順番を確認しましょう。会社はまず、従業員に対して1,892,800円の報酬を決めます。ただし現金では渡しません。渡すのは、1,892,800円を請求できる権利です。従業員はその権利を丸ごと会社に差し出して、株を引き受けます。
なぜ、そんな面倒なことをするのでしょうか。会社が1,892,800円を振り込んで、従業員がその中から払い込めば済みそうです。それでも成立はしますが、同じお金が会社から出て会社に戻るだけです。
では、相殺すればよさそうに思えます。会社は従業員に1,892,800円を払う。従業員は会社に1,892,800円を払う。同じ額だから差し引きゼロにする。ところが、それはできません。
平成31年度 午後の部 第30問 肢3
株主に株式の割当てを受ける権利を与えてする募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
募集株式の引受人が募集株式を発行する会社に対し金銭債権を有する場合において、当該引受人が払込金額の全額の払込みをする債務と自己が有する当該金銭債権とを相殺する旨の意思表示をしたときは、当該意思表示をしたことを証する書面を派付して募集株式の発行による変更の登記を申請することができる。
解答と解説を見る(平成31年度 午後の部 第30問 肢3)
解答:この記述は誤り
誤りです。募集株式の引受人は、出資の履行をする債務と会社に対する債権とを相殺することができません(会社法208条3項)。これは、会社の資本を確実に確保するための「資本充実の原則」によるものです。したがって、相殺の意思表示をしたことを証する書面を添付して登記申請をすることはできません。
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株式会社の財産は、株主が出したお金でできています。会社の債権者は、その財産だけを頼りに取引をしています。株を出したのに財産が入っていない、という状態を会社法は嫌います。ちゃんと入れたことを外から見えるようにしておきたい、という発想です。
ただし、これは引き受ける側からの相殺を封じている規定です。似た場面でも扱いが分かれます。
令和2年度 午前の部 第33問 肢4
株式と社債との異同に関する次のアからオまでの記述のうち正しいものの組合せはどれか。
募集株式の引受人は、払込金額の払込みをする債務と株式会社に対する債権とを相殺することはできないが、社債権者は、払込金額の払込みをする債務と株式会社に対する債権とを相殺することができる。
解答と解説を見る(令和2年度 午前の部 第33問 肢4)
解答:この記述は正しい
正しいです。募集株式の引受人は、払込金を実際に払い込む義務があり、これを会社に対する他の債権と相殺することは禁止されています(会社法208条3項)。これは会社の資本を確実に確保するための「資本充実の原則」の表れです。一方、社債の払込みについてはこのような相殺禁止規定はなく、相殺が可能です。
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社債は会社にとっては借金ですから、資本を確実に集めるという話とは土俵が違います。
相殺はできない、現金の往復には意味がない。そこで残るのが三つ目の道です。お金を払い込むのではなく、金銭債権という財産そのものを会社に差し出す。これが現物出資です。会社にとって自分が負っている借りが自分のところへ戻ってくるので、その債務は消えます。相殺という手は使えないけれど、別の道から実質的に同じところへたどり着いています。
現物出資なのに、検査役が出てこない
現物出資と聞いたら、次に思い浮かぶのは検査役です。現物出資を定めたら、遅滞なく裁判所に検査役の選任を申し立てる。これが原則です。
ところが、開示文書を最後まで読んでも、検査役という言葉は一度も出てきません。書き忘れではなく、検査役の調査が要らない場合に当てはまっているからです。しかも今回は、二重に当てはまっています。
一つ目は、現物出資する財産の価額の総額が500万円を超えないとき。今回は1,892,800円ですから、これだけで検査役は要りません。少額なら裁判所を巻き込むまでもない、という割り切りです。
二つ目が本命です。現物出資する財産が、その会社自身に対する金銭債権であって、弁済期が来ていること。そして、定めた価額がその債権に対応する負債の帳簿価額を超えないこと。
令和3年度 午後の部 第30問 肢1
募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。 なお、定款に別段の定めはないものとする。
現物出資財産が、会社に対する弁済期が到来している金銭債権であり、募集事項として定められた価額が500万円を超える場合であっても、当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えないときは、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、当該金銭債権についての現物出資財産の価額に関する検査役の調査報告を記載した書面及びその附属書類を添付することを要しない。
解答と解説を見る(令和3年度 午後の部 第30問 肢1)
解答:この記述は正しい
正しいです。株式会社が募集事項として現物出資財産を出資の目的と定めた場合、募集事項の決定の後遅滞なく、裁判所に対し検査役の選任の申立てをしなければなりません(会社法207条1項、199条1項3号)。しかし、当該現物出資財産が当該株式会社に対する弁済期の到来した金銭債権であって、当該金銭債権について定められた現物出資財産の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合は、検査役による調査を省略することができます(会社法207条9項5号)。この場合、価額が500万円を超えるときであっても検査役の調査を省略でき、変更の登記の申請書には、当該金銭債権について記載された会計帳簿を添付すれば足ります(商業登記法56条3号)。
タグ:#募集株式の発行による変更の登記#株式#検査役の調査#現物出資#出資#定款#登記#募集株式の発行等
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ここは大事なので、二つの例外の違いを押さえてください。金額による例外には500万円という上限がありますが、会社に対する金銭債権による例外には、金額の上限がありません。
理由を考えると納得できます。検査役が調べるのは「その財産、本当にその値段ですか」ということです。土地を1億円と言われても、実際は3千万円かもしれない。ところが会社に対する債権は、会社自身の帳簿に、いくらの借りかが既に書いてあります。水増ししようがないのです。
今回のリブセンスは少額ですが、もっと大きな会社が役員や従業員に何億円分もの株式報酬を出すことがあります。そのたびに裁判所へ検査役の選任を申し立てていたら、制度として回りません。この例外が、株式報酬という仕組みを支えている条文の一つです。
登記が必要になる場面で添付するのも、専門家の証明ではありません。
平成26年度 午後の部 第33問 肢5
会社法上の公開会社でない株式会社における募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
出資の目的が株式会社に対する弁済期が到来している金銭債権であって、募集事項として定められた価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合には、募集株式の発行による変更の登記の申請書に、会計帳簿に記載された当該金銭債権の帳簿価額についての公認会計士又は監査法人による証明を記載した書面を添付しなければならない。
解答と解説を見る(平成26年度 午後の部 第33問 肢5)
解答:この記述は誤り
出資の目的が株式会社に対する弁済期が到来している金銭債権であって、募集事項として定められた価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合には、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、当該金銭債権について記載された書面(会計帳簿)を提供しなくてはならないが、これについて、公認会計士又は監査法人の証明は要求されていません(商業登記法56条3号ニ参照)。従って、本選択肢は誤りです。
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会計帳簿そのものを出せば足ります。専門家の証明が要りそうに見えて、実は要らない。ここも組み合わせで覚えておきたいところです。
「譲渡制限付株式」は、譲渡制限株式ではない
タイトルに戻ります。「譲渡制限付株式報酬」の譲渡制限付株式とは何でしょうか。
定款で「譲渡するには会社の承認が必要」と決めた株式、つまり会社法でいう譲渡制限株式のことだと読みたくなります。あるいは、種類株式の一種だと思うかもしれません。どちらでもありません。
さきほど確かめたとおり、リブセンスの登記簿には「株式の譲渡制限に関する規定」の欄も、「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の欄もありません。渡されるのは、開示にもそう書かれているとおり、ごく普通の普通株式です。
では、譲渡制限とは何なのか。開示の3番、割当契約の概要にこう書かれています。対象従業員は、この期間、本割当株式について譲渡、担保権の設定その他の処分をしてはならない。これは契約です。会社と従業員が割当契約を結んで、その中で約束しています。
売れないのは、そう約束したからであって、株の性質として売れないわけではありません。買った本を友達に貸さないと約束するようなもので、本そのものは貸せる本のままです。
約束しただけでは、こっそり売られてしまうのではないか。そう思ったところで、開示の4番目に「株式の管理」という項目が出てきます。この株は証券会社に開設した譲渡制限付株式の専用口座で管理される、と書かれています。契約で約束したうえで、動かせない箱に入れておく。法律の力ではなく、契約と口座の管理で実現しているわけです。
だから、登記簿はこうなります。
| 株式の譲渡制限に関する規定 | この会社の登記簿には、この欄がありません。 |
|---|
今回の「譲渡制限付株式」は契約による縛り。定款の譲渡制限とは別物なので、この欄は空いたまま動かない。
定款を変えていないので、この欄は空いたままです。もし本当に会社法の譲渡制限株式だったなら、話はまるごと変わります。
平成29年度 午後の部 第30問 肢4
取締役会設置会社における、株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
会社法上の公開会社が発行する募集株式が譲渡制限株式である場合には、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、定款に別段の定めがあるときを除き、募集株式の割当てについて決定した取締役会の議事録を添付しなければならない。
割当ての決定機関も、登記申請書の添付書面も変わってきます。「付」という一文字の差で、別の制度になるわけです。
公開会社なら、譲渡制限株式は出せないのか
ここで一つ、確かめておきたいことがあります。リブセンスは公開会社でした。では公開会社である以上、譲渡制限株式を出すことはできないのでしょうか。
答えは「できます」です。
令和5年度 午前の部 第28問 肢1
株式会社の定款に関する次のアからオまでの記述のうち判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せはどれか。
株式会社が、その発行する全部の株式ではなく、一部の株式についてのみ、その内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない場合であっても、当該株式会社は、会社法上の公開会社である。
解答と解説を見る(令和5年度 午前の部 第28問 肢1)
解答:この記述は正しい
正しいです。「公開会社」とは、その発行する株式の中に、一つでも譲渡制限のない株式(自由に譲渡できる株式)が含まれている会社を指します(会社法2条5号)。したがって、一部の株式に譲渡制限があっても、一部にでも譲渡制限がない株式があれば、その会社は公開会社に該当します。
この問題の詳細ページへ(問題ID: R05-AM28-1)
公開会社の定義は、発行する全部又は一部の株式について、譲渡に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない会社、というものです。裏返すと、一つでも譲渡制限のない株式があれば、その会社は公開会社になります。
ですから、種類株式発行会社であれば、ある種類の株式にだけ譲渡制限をつけて、別の種類には付けない、という形が取れます。それでもその会社は公開会社です。公開会社イコール全部の株式が自由に譲渡できる会社、ではありません。
さきほど解いた過去問を思い出してください。「会社法上の公開会社が発行する募集株式が譲渡制限株式である場合には」という書き出しでした。公開会社なのに譲渡制限株式を発行している。あれは、いま確かめたこの構造を前提にした問題だったわけです。
では、もし本当に種類株式発行会社が、譲渡制限のついた種類株式を募集したら、どうなるでしょうか。
令和3年度 午後の部 第30問 肢3
募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。 なお、定款に別段の定めはないものとする。
種類株式発行会社が株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行の場合において、当該募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合を除き、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、募集事項の決定に係る当該種類株主総会の議事録を添付しなければならない。
その種類の株主だけで開く種類株主総会の決議が要ります。譲渡制限がつけば、その種類の株主にとっては売りにくくなるわけですから、当事者に諮る、という理屈です。登記の申請書にも、その議事録が要ります。
もっとも、リブセンスの登記簿には「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の欄がありません。種類株式発行会社ではないので、そもそもこの話に入っていきません。渡されるのは普通株式です。
譲渡制限は、登記されるものとされないものがある
ここまでで、譲渡制限という言葉が三つ出てきました。整理しておきます。
一つ目は、株式の譲渡制限です。定款で定めて、登記されます。リブセンスの登記簿では、その欄が現れていませんでした。
二つ目が、今回の譲渡制限付株式です。割当契約で定めるので、登記簿には何も現れません。
そして三つ目があります。新株予約権にも、譲渡制限をつけることができます。新株予約権の内容として、譲渡には会社の承認を要する、と定めるのです。従業員に自社株を渡す方法としては、ストックオプション、つまり新株予約権を使う会社のほうがむしろ多いくらいですから、実際によく出てきます。
では、新株予約権の譲渡制限は、登記されるのでしょうか。
平成29年度 午後の部 第31問 肢2
新株予約権の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
募集新株予約権の内容として、譲渡による当該新株予約権の取得について発行会社の承認を要する旨の定めがあるときは、募集新株予約権の発行による変更の登記の申請書には、登記すべき事項としてその定めを記載しなければならない。
されません。新株予約権については、行使期間や行使価額といった事項が登記されますが、譲渡制限の定めは登記事項に入っていません。株式の譲渡制限は登記されるのに、新株予約権の譲渡制限は登記されない。ここは非対称です。
こうして並べると、司法書士の物差しで三つを切り分けられます。
- 株式の譲渡制限は、定款で定めて登記される
- 新株予約権の譲渡制限は、新株予約権の内容として定めるが登記されない
- 契約による譲渡制限は、そもそも会社法の制度ではないので登記されない
同じ「譲渡制限」でも、どこに付いたものかで、登記簿に現れるかどうかが変わる。この分野は、言葉が似ているものを見分けることが、そのまま得点になります。
そして、この登記簿は一文字も動かない
最後です。司法書士試験ですから、登記の話で締めましょう。この自己株式の処分について、どんな登記をすることになるでしょうか。
募集株式の発行等の手続を通ったのだから、発行済株式の総数と資本金の額の変更登記を2週間以内に、と考えたくなります。もう一度、二つの欄を見てください。
| 発行済株式の総数 並びに種類及び数 | 発行済株式の総数 2816万株 | |
|---|---|---|
| 資本金の額 | 金2億3721万9000円 | |
自己株式が会社から従業員へ移るだけなので総数は変わらず、新しく発行する株式がゼロなので資本金に組み入れる額もゼロになる。
発行済株式の総数は増えません。 会社の手元にあった株が従業員に移るだけだからです。新株を発行すれば総数は増えますが、自己株式の処分では持ち主が変わるだけで、1株も増えません。だから既存の株主の持ち分が薄まることもありません。
では資本金はどうでしょうか。1,892,800円は確かに会社に入ってきます。ところが、資本金には入りません。資本金に組み入れられる額は、新しく発行した株式に対応する分だけと決められています。今回、新しく発行した株式はゼロ株です。ゼロに何を掛けてもゼロですから、資本金は1円も増えません。
平成29年度 午後の部 第30問 肢2
取締役会設置会社における、株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
出資の目的が金銭であり、募集株式の一部が自己株式である場合には、払込みがされた額の全額を増加する資本金の額とする募集株式の発行による変更の登記の申請をすることはできない。
解答と解説を見る(平成29年度 午後の部 第30問 肢2)
解答:この記述は正しい
正しいです。募集株式の発行に際し、自己株式を交付する場合、資本金として計上できる額には制限があります(会社計算規則14条)。具体的には、募集株式の払込額の全額を資本金に計上することはできないため、この記述は正しいです。
タグ:#募集株式の発行による変更の登記#株式#自己株式#出資#登記#取締役#取締役会#募集株式の発行等
この問題の詳細ページへ(問題ID: H29-PM30-2)
発行済株式の総数も、資本金の額も動かない。登記簿に書いてある事柄がどちらも変わらないということは、この処分については変更登記の申請が要らないということになります。
取締役会で決議して、募集事項を決めて、現物出資までして、それでも登記簿は一文字も変わりません。拍子抜けするかもしれませんが、これは大事なことです。相談を受けたときに「この場合は登記が要りません」と言えることも、司法書士の仕事です。要らないものを申請してしまうほうが問題ですから。
もし今回が新株の発行だったら、発行済株式の総数と資本金の額が動きますから、変更登記が必要になります。同じ募集株式の発行等でも、新株か自己株式かで登記の有無が丸ごと変わる。手続は同じ土俵、結果は別です。
今回の論点を振り返る
一枚の開示から、登記簿の欄をたどってきました。三つに畳んでおきます。
- 自己株式の処分も、募集株式の発行等である。取締役会で決めて、割り当てて、出資してもらう。手続は新株を出すときと同じ土俵です。それでも発行済株式の総数も資本金の額も動かないので、登記は要りません。
- 相殺ができないから、金銭債権を現物出資する。会社に実際に財産を入れさせたいので、引受人からの相殺は禁じられています。そして会社に対する金銭債権であれば、金額が大きくても検査役は要りません。
- 譲渡制限付株式は、譲渡制限株式ではない。定款ではなく契約で縛っているので、株はふつうの普通株式のままです。登記簿の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄は空いたままです。
そして、登記簿そのものについて。公告方法にはURLとただし書まで載っていました。発行可能株式総数と発行済株式の総数は4倍の関係にありました。役員区の重任の日付には、取締役の1年と監査役の4年が年表として残っていました。代表取締役が引っ越すたびに、登記簿が動いていました。
司法書士試験で覚えている条文は、実際の会社の紙の上で使われています。そして、その紙のかなりの部分は登記簿です。問題文で一行で与えられる前提が、実物ではどの欄に、どんな言葉で書かれているのか。そこが重なってくると、条文の暗記が少しだけ立体的になると思います。
参照した資料
- 株式会社リブセンス「従業員に対する譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分に関するお知らせ」2026年8月21日
- 株式会社リブセンス 履歴事項全部証明書(2026年8月21日取得)
- 株式会社リブセンス 会社概要・コーポレートガバナンス(同社コーポレートサイト)
- 会社法・会社計算規則・商業登記法の現行条文
この記事で扱った過去問
- 令和2年度 午前の部 第33問 肢1会社法/社債
- 令和3年度 午前の部 第34問 肢1会社法/会社の公告
- 平成29年度 午後の部 第34問 肢1商業登記法/登記全般
- 令和3年度 午前の部 第34問 肢3会社法/会社の公告
- 令和4年度 午後の部 第29問 肢1商業登記法/株式全般
- 令和2年度 午前の部 第28問 肢1会社法/株式
- 令和2年度 午前の部 第29問 肢5会社法/機関
- 令和2年度 午後の部 第29問 肢4商業登記法/役員変更
- 平成25年度 午後の部 第32問 肢1商業登記法/役員変更
- 令和3年度 午後の部 第30問 肢5商業登記法/募集株式の発行等
- 平成31年度 午後の部 第30問 肢3商業登記法/募集株式の発行等
- 令和2年度 午前の部 第33問 肢4会社法/社債
- 令和3年度 午後の部 第30問 肢1商業登記法/募集株式の発行等
- 平成26年度 午後の部 第33問 肢5商業登記法/募集株式の発行等
- 平成29年度 午後の部 第30問 肢2商業登記法/募集株式の発行等
- 平成29年度 午後の部 第30問 肢4商業登記法/募集株式の発行等
- 令和5年度 午前の部 第28問 肢1会社法/株式会社の定款
- 令和3年度 午後の部 第30問 肢3商業登記法/募集株式の発行等
- 平成29年度 午後の部 第31問 肢2商業登記法/新株予約権